ものがたり

大森山の悪さ狐(わるさきつね)

(悪さ狐を退治しに行き、反対に狐に化かされて帰って来た村の若者の話)
ざあっと昔す、ここの部落の人たちが隣の北郷村へ行くのには、恵林寺のわきの山道を登り、大森山を経て、北郷村へと行ったと。
この大森山には、親子の悪さ狐が棲みついていて、ここを通る村人たちを馬鹿にするので、ほどほどに困り抜いていたと。      
 一人の若者が、
「よし、俺が二度と悪さをしないように懲(こ)らしめてやろう」
と、小太刀を懐にして山道を登って行ったと。
大森山にかかる頃は、日もとっぷりと暮れて、辺りも暗くなってきたと。
 すると、草むらから一匹の狐が飛び出し、二、三間先でクリンとでんぐり返しをして、メンコイ娘ごに化けたと。
 そして、若者のそばに寄って行き、
「この山道で暗くなり、道に迷って困っております。どうか道の分かる所まで連れて行って下さい」
若者は、
「こいつだな、ここを通る村人を馬鹿にする狐というのは」
と、懐に隠し持っていた小太刀で、寄り添う娘の脇腹を思いきり刺したと。
 手応えあって、娘は若者の足元に倒れたと。若者は仕留めたと思い、少し待てば正体を現す、と。そしたれば、持ってきた荒縄で手足をふんじばって村に担いで帰り、
「これからの山道は大丈夫だ」
と、自慢してやろうと。
 それがいくら経っても、その娘ピクともしないんだと。
若者は、 「これはとんだ事をしてしまった。本当の娘をば狐の仕業と勘違いして、大変な事をしてしまった」と、心配になって来たと。
 そこへ下の方から明りが近づいて来たと。それは提灯を下げた年老いた坊様だったと。
 近づいて来て、
「どうなされたね。ありゃりゃ、これは大変な事をなすってしまわれたなあ。お前さんもこんな所でこの娘ごをば殺すたとなれば、このまま村へ帰り、このことが村の人々にでも知れたらただ事でねえぞ。またこの事がお上の耳にでも入ったれば、捕まって牢獄で一生送る身となるぞ。ただしこの事を知っているのは、お前さんとこの私だけだ。もしもお前さんがこの事の罪をば悔い改めて、仏の道に入りなさり、この娘さんをば懇(ねんご)ろにしなさると言うなれば、私も見なかった知らなかった事にしよう。どうだ、これから仏に使え、仏の道に入りなさるか。なれば、お前様もこの娘ごも救われるだろう」
若者はボロボロと涙をこぼし、
「俺はとんでもねえ事をばすてすまった。どうかおいらをば助けてくだせい。なんでもすますだ。どうか坊様の弟子こにすてくだせい」
と、頼んだと。
 するとこの坊様、衣の下よりカミソリをば取り出し、
「では、お前様を仏の道に入れてやろう。まず初めの行として、頭を剃らなければならない。この私が剃ってあげるから、西の方を向いて目をつむり両の手をば併せ、懸命にお念仏をば唱えなされ」と。
言われる通り若者は、両手をば併せ懸命に念仏をば唱えたと。
 頭がすっかり剃り終わったようなので目を開けたれば、そこには坊様の姿も無ければ、倒れているはずの娘ごの姿もなく、ススキだけが揺れていたと。
若者はすっかりこの悪さ狐に騙(だま)されてしまい、持っていた手拭いで頬被(ほおかぶ)りし、すごすごと村へ帰って行ったと。
どんとはれ

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