ものがたり

狐に化かされた話

狐に化かされた話終戦後、とんと聞かなくなった話の一つに、狐に化かされた人のことがある。
なんとなく愛敬があり、どこか人間くさいこの小動物の姿も、このあたりでは、もう見かけることもなくなった。
昭和の初期には、三名生あたりの農家の木小屋に、ひそかに入りこんで、昼寝を楽しむ狐の姿をごく普通に見かけたそうである。
今のヒューム管工場やリコーあたりでは、昔はヨシ谷地で、一人で歩くのがさびしい程の所だったそうである。
 このヨシ谷地の中に狐が巣をつくっていて、土手を歩く人を化かしていたのだろう。
 中名生の、小林元さんから聞いた話では、山の方よりも、白石川のあたりにいる狐の方が多かったそうである。
したがって化かされる人も、ヨシ谷地の方が多いとのことである。
 小林さんから聞いたいくつかの「化かされた」話を紹介します。

その一

昔は、今の船岡中あたり一帯は、水田稲作用のレンゲ畑で、春はとっても美しく、何となくいいニオイだったそうである。狐はこのレンゲの花畑
の上で、太い尻尾をスーッとのばして、通る人をじっと見ていて、化かす人を品定めするのである。だいたい自転車で通る人には、およそ知らんぷりをして、一杯気嫌で歩く人に目をつける。
ある時、船岡でお振る舞いに呼ばれ、飲んで帰った人があった。昔のお振る舞いの引き出物は、肴とカマボコで、今のようにシーツなどは引かなかった。
折りを風呂敷に包んで、首根っこにくくりつけて、歌うたって帰る。そういう人が多かった。
 この人もいい気嫌で今の記念碑近くまで来たら、ドンドン田の方に入って行って、レンゲの花畑の上に風呂敷を広げ、折りの肴ならべてべたっと座っていた。何かしきりに手まねしてしゃべっているみたいだ。
 明け方早く通りかかった人がいて、レンゲの花の上で寝ている人を見つけて声をかけた。 やっと目が覚めたようにして、ボーッとなっていたので、訳を聞いてみたら、知り合いにあって、折りの中味を聞かれて、開いて見せたんだということであった。
 もちろんその時には、風呂敷の上にはもう、肴のカケラも何もなかったそうである。

その二

狐は、鶏をとって行って隠して置くことがある。
小林さんの鶏が三、四羽とられたことがあった。犬だと思ったが、念のため熊野神社の方に行って見たら、さらっと穴を掘って、鶏を隠していた。上に落ち葉と土をかぶせてあった。ちょっと掘り返して見たら、鶏が出て来た。ざっとだけの仕事ですぐわかる。
家のウラ手ばかりでなく、前の明神様あたりにも狐の姿を見た。池のあたりをケーン、ケーンと鳴いていたと思うと、もうお寺の方で聞こえる。羽がないから飛ぶ訳はないが、飛んでいると思う程素早い。
ケーン、ケーンと鳴く狐と、コンコンと鳴くのがいる。子供の頃、着どころ寝をして風呂に入るのがイヤになると、よく親から
「狐の来ない内に風呂に入れ」
と言われた。
ケーン、ケーンという声が聞こえると、恐ろしかった。

その三

狐は、辺戻(へんれい)返しをする。
船岡のある店屋の旦那が、君萱に用足しに行った。季節は、カヤ野の黄ばんだ頃であった。日がさして、カヤがキラキラ光っている。何かうす赤いものが見えたので立ち止まって見た。何と狐が昼寝をしているではないか。
この旦那は、足元の石ころを拾って、狐をめがけて投げつけた。狐はビックリして飛び上がった。逃げる途中、何度も旦那の方を見ながら逃げて行った。
その夜、旦那の家の庭先で、唐箕(とうみ)をカラカラっと回す音が調子よく聞こえる。なんでこんな夜中にと、旦那は雨戸を開けて外を見たが、何もない。布団に戻るとまた聞こえる。旦那はまんじりとせず一晩を過ごした。次の夜も、その次の夜も、唐箕のカラカラに悩まされた。たまりかねた旦那は、おがんでもらった。
すると、狐の祟りだと言われた。現場に行って、油揚げとローソクをおいて、ついでにカヤ野に向かってあやまってきた。するとその夜から、カラカラが聞こえなくなったそうである。
 石などぶつけると返戻がえしあるが、ただおどかした位ではないそうである。
ある日、小林さんのお父さんが槻木から帰る時、今のリコーのあたりで、ヨシ谷地から出て昼寝をしていた狐を見つけた。わざと自転車のベルをリンリンリンと鳴らしたら、狐はビックリして逃げて行った。
返戻がえしをされるを、半分期待して待っていたが全然なかったそうである。
  *辺戻・・・返したり戻したりすること。返却。
  *唐箕・・・穀物に混じった籾殻やごみを選別して取り除く農具。箱の中に風を送る装置をつくり、籾殻などを吹き分ける。

その四

狐の嫁入りを、小林さんはご夫婦そろって見たそうである。
冬至近くに、風もないどよっとした暗い夜だった。阿武隈川のそばの八剣さんあたりに、赤い提灯のような灯を見た。十ぐらいの赤い灯が踊るように見えた。後の方の灯がはねるように前に出ると、パッと消える。すると、今まで後だった灯が、今度は前に出る。消えたり、ついたり、踊るように続く。家中、そろって見物したそうである。
このころが、狐のさかりのつく頃だと教えられたそうである。
別の人たちは、青い灯がチラチラと揺れて行くように見えると言う。見る人の場所や、見た方向の違いで灯の色が違うのかわからない。
いずれにしても、遠い昔のような話になってしまった。もう、今は八剣さんの森も、白石川のヨシ谷地も見えない。
 現在は、コカコーラの山積の陰だし、何百という車のプールになってしまっている。

地域の言い伝えから

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