ものがたり

絹引きの井戸

絹引きの井戸ざあっと昔、館山の館で働く女ごで、心の優しい娘がおったと。いつもの様に裏のつるべ井戸で水を汲み洗い物をしていると、一匹の蛇が草むらから出てきたと。
 この館では、「くっさび」が出るので蛇を嫌い、見たら殺す事としていたと。娘は蛇に「早くいきな、家の者にでも見つかると殺されるかも知れないから」と、蛇は草むらの中に姿を消した。娘は心の中でよいことをしたと思った。
その夜娘が床につくと、夢の中に若者が現れ、「きょうは危うい所を助けて頂き、有難うございました。そのお礼に明日の朝、貴女が汲むつるべの桶に貴女の好きな糸を括りつけておきます。心のやさしい貴女が糸を引く時は、尽きることなく出るでしょう」と告げると、若者の姿は消えたと。
翌朝娘がつるべ桶を引き上げて見ると夢の中での若者の話どおり、桶には美しい絹の糸が括りつけてあったと。
娘は、引いても引いても尽きずに出てくる糸で、奇麗な着物を織ったと。
その話を聞いた欲の深い男が、その井戸から出てくる糸をたくさん出そうと思い、馬を引いてきて、馬の尾に糸を括りつけ走らせたと。糸はフッと切れて後は出なかったと。
今でも「二の丸跡」には、この井戸が残っている。今から八百年ほど前の柴田公の館での話だと。

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