ものがたり

大工のごんべえ

大工のごんべえ 昔、昔、奥羽は槻木、羽山の下に近江という庄屋がいたんだど。
 その庄屋さんは、うんと面倒みがいがったんだどや。そして、庄屋さんはみんながら、「庄屋さん、庄屋さん」と言われて、銭だの何にも無いんだげんとも、みんながら慕われたんだど。
 ある時、ぼろぼろの着物を着て山をおりて来た人がいたんだど。その旅人が庄屋さんさまわって、「庄屋さん、申し訳ねんだげんども、今晩一晩、泊めでけねべが」と頼んだんだど。
 「こんなどごでもいいがったら泊まっていがんしょ。
ほだげんとも何にもねえがらな」と言って、庄屋さんは、大根だの菜っ葉ば入れた雑炊をくわせで、もてなしてやったどや。
そして、風呂さ入れて、おがさんが背中を流してやったんだど。
 次の日、その旅人は、 「ああ、おかげさんで、何にも代えられない心のもてなしを受けて、こんなにありがでごどはねがった。掛け軸一本あっから、お礼のしるしに置いていぐがら」と言って、帰ったんだど。
ところが、庄屋さんは、その掛け軸をかまわねでおいたんだど。ある時思い出して、あの旅人のおいで行った掛け軸を飾って、お正月つぁんを迎えっぺというごどになって、飾ってみたんだど。
そしたっけ、ビガビガと光る阿弥陀如来の絵で、後光がさして、まなぐをあいていられないぐらいまぶしかったんだどや。
庄屋さんは、銀めしを炊いて、その掛け軸さ上げだんだと。
 そしたっけ、庄屋さんの家さ、どこからともなく金が入ってくるし、米だのいろいろもらって不自由しなくなったんだど。
その内この辺一番の庄屋になって、家も狭こくなったので、家を建て替えることになったんだど。
そうして、大河原という町の、ごんべえという大工を頼むごとになったとさ。
立派な家ができあがるばかりになったが、ごんべえはじめ大工たちは、庄屋の家の掛け軸がビガビガ光るし、お詣りするとどこからともなくお金が入って来るもんだから、欲しくて欲しくて、いつか掛け軸を盗んでやっぺと思っていたんだど。
大工のごんべえ  ある時、月がこうこうと美しい晩、みんなが寝静まるのを待って掛け軸をかっぱらったんだど。
そうして大工たちに背負わせて、ごんべえが先に立って山の坂を越えて沼辺の方さ下って行ったんだど。そうしたら、狐だのむずなだの、ごんべえらの前や後さ行列をつくって、歩くこともできなくなったんだど。
ほすて、今まで十五夜で美しい空が、たちまち真暗になって雷さんが「ゴロゴロゴロ、ドカーン」ほんでも、何とかして大河原のごんべえの家まで帰っただと。そして、その掛け軸は家さ置いて寝たんだど。けど、なんだか屋根の上ではゴソゴソ、縁の下ではガタガタと、地震みたいに揺れて、三日三晩、一睡もできねがったんだど。
 ごんべえは、早くこの掛け軸を売っぱらってしまうべと思って、質屋さ持っていったんだと。
そして、売ったお金で酒ば飲んだっけ、大工たちはみんなコロッと死んでしまったんだとよ。
 質屋でも、コトコト音がしたり、ポーッと明るくなったり、何だかへんだなあと思っていたんだと。そうしているうちに、掛け軸が盗まった。大工たちが罰あだって死んだど。それを聞いた質屋の主人は、腰抜かさんばかりに驚いて、掛け軸ば山の上の近江家さ返したんだとよ。
そうしたっけ、質屋も近江家もますます繁盛したんだどさ。

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