ものがたり

むじなの花嫁

むじなの花嫁遠い遠い昔なんだとさ。
上野の山さ、白いひげをはやした、年取ったじいさんが住んでいたんだと。
ある暖かい春の日、じいさんはうらの畑を耕(うな)っていたんだと。年を取っているので、一生懸命働いても、なかなか仕事がはかどらなかったんだとさ。じいさんは、顔の汗をふきふき、「誰か、この畑を耕ってくれないかなあ。全部耕ってくれたら、むすめを嫁にやるんだが……」
と、ひとり言をいっていたんだと。
すると、どこからか一匹のむじなが出てきて、広い広い畑をたちまち耕ってしまったんだとさ。そして、むじなは、「あした、若い男に化けて嫁さんをもらいに行く。すっかり用意して待っててくれ」と、じいさんに言って、山の中に入って行ってしまったんだと。
さあ大変。じいさんは、あんなことを言わなければよかったと、ほとほと弱ってしまったんだと。家さ帰るにもハアハアため息をつき、足はフラフラ、気もそぞろだったんだと。
家に帰ったじいさんは、あまり顔色が悪いので、「おじいさん、なにしたの」「おじいさん、ぐあいでも悪いの」と、娘たちから聞かれたんだと。おじいさんは、三人の娘たちにあのことを話してしまったんだと。
むじなの花嫁話を聞いた上の娘と中の娘は、カンカンになって怒って、家を出て行ってしまったんだと。気だてのやさしい末の娘は「おれがむじなのところさ嫁に行くから、嫁入り道具にウスとキネを持たせてくれろ」と言ったんだと。じいさんは、新しいウスとキネを作って、末の娘にくれたんだとや。
次の朝早く、むじなは新しい紋付き袴をはいて、嫁ごさんを迎えに来たんだと娘は、「なあんだ、むじなでなくて本当の若い男でねえか。おらいのじいさん、何か気がくるったんではねぇべか」と言ったんだと。
若い男は、ウスを背負いキネをかついで、どんどん山の中に歩いて行ったんだと。
しばらくすると、深い谷川があって美しいフジの花が咲いていたんだと。娘はそのフジの花を指して言ったんだとさ。
「美しいなあ。きれいだなあ。ほしいなあ」若者は、ウスとキネをそこに置いてフジの花を取ろうとしたんだと。すると、若者は足をふみはずして谷川に落ちて行ったんだとや。
たいそうなげき悲しんだ娘は、若い男のかたみのウスとキネを持ち帰って、そのウスで餅をついて、若い男の霊をとむらったんだと。
それからというもの、そのウスとキネで餅をつくと、あとからあとからどんどんふくれあがったんだとさ。
こうしてこの娘の一家は、村一番の金持ちになったんだとさ。

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